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鎌イルカのクラフト記

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AIが使えない人に足りないのは、プロンプト力じゃなかった

AIが使えない人に足りないのは、プロンプト力じゃなかった

たとえば、こんな場面を想像してみてください。

入社2ヶ月目の新人が、AIに作らせた市場調査レポートをそのまま取引先へのプレゼン資料に貼り付けた。発表当日、クライアントから「このデータ、出典元に載ってませんよね?」と指摘されて会議が凍りついた——。数字もグラフも、AIが「それっぽく」作り上げたものだった。

架空のシナリオですが、似たようなヒヤリハットは2026年の今、あちこちの職場で実際に起きています。

「AIってすごいらしいけど、何をどう頼めばいいの?」「使ってみたけど微妙だった」「正直ちょっと怖い」——そう感じているあなたは、むしろ健全です。何も疑わずにAIの出力をコピペしてしまう人のほうが、よっぽど危ない。

この記事では、プログラミングの知識がなくても、AI未経験でも大丈夫なように、AIとうまく付き合うための考え方をお伝えします。テクニック集ではありません。もっと手前の「そもそもAIってどういう存在なの?」「どうやって話しかければいいの?」というところから始めます。


第1章:AIは何ができて、何ができないのか

AIって、ミスするんですか?

いきなりですが、結論から言います。

AIはミスをします。しかも、自信満々に間違えます。

たとえば、こんなことが実際に起きます。

あなた:「弊社の就業規則で、有給休暇の付与日数を教えてください」

AI:「入社半年後に10日付与されます。これは労働基準法第39条に基づく規定です」

一見、正しそうに見えますよね。でも、AIはあなたの会社の就業規則を読んだわけではありません。一般的な法律の知識から「それっぽい回答」を作っただけです。もしあなたの会社に独自ルールがあったら? この回答を鵜呑みにして上司に報告したら? …ちょっと怖いですよね。

AIは「超優秀だけど記憶喪失の新人」

AIの特徴をひとことで言うなら、こうです。

「めちゃくちゃ頭の回転が速いけど、文脈を忘れるし、知らないことも知ったふりをする新人」

このメンタルモデルを持っておくと、AIとの付き合い方がグッと楽になります。具体的に見てみましょう。

① 忘れる

AIとのチャットが長くなると、最初のほうで伝えた条件を忘れることがあります。

あなた:「A社向けの提案書を作っています。予算は500万円以内で…」

(やりとりが20往復続く)

あなた:「じゃあ、最終的な費用の内訳を出して」

AI:「合計は820万円になります」

…予算500万って言いましたよね? でもAIは悪気なく忘れています。人間の新人でも、長い打ち合わせの途中で最初の前提を忘れることはありますよね。AIも同じです。

② 脱線する

質問に関連する情報をどんどん膨らませて、聞いてもいないことまで延々と説明し始めることがあります。「メールの件名を考えて」と頼んだだけなのに、メールマーケティングの歴史から語り始めたり。

③ 勝手に気を利かせる

頼んでいないことを「よかれと思って」やってしまうことがあります。

あなた:「この文章の誤字を直して」

AI:(誤字を直しつつ、文章の構成も変え、表現もブラッシュアップし、見出しまで追加する)

ありがたい場合もありますが、「いや、誤字だけでよかったんだけど…」ということも多いです。

つまり、AIは万能ではない

AIは便利な道具ですが、「何でも正しくやってくれる魔法の箱」ではありません。ここを最初に理解しておくことが、AIとうまく付き合う第一歩です。


第2章:「言語化能力」は本当に必要か

「文章がうまくないとAIは使えない」は誤解

AIに指示を出すとき、「文章力が必要なんでしょ?」と構える人がいます。

答えは、半分イエスで半分ノーです。

必要なのは「きれいな文章を書く力」ではありません。必要なのは、**「自分が何を求めているか、分解できる力」**です。

あるエンジニアのこんな言葉が、それを端的に表しています。

「エンジニアにとって一番重要な言語は、国語。」

@TETRAN_IT

プログラミング言語でもAIへの呪文でもなく、「国語」——つまり、考えを整理して相手に伝える力。これはAI時代においても変わりません。

「いい感じにして」の罠

こんな経験はありませんか?

先輩:「この資料、いい感じにしておいて」

あなた:(…いい感じって何?)

「いい感じ」は100人いれば100通りの解釈があります。フォントを変えるのか、構成を変えるのか、データを追加するのか。先輩がどれを望んでいるのか、これだけでは分かりません。

AIも同じです。「いい感じにして」と言われたら、AIは「たぶんこういうことだろう」と推測して何かを返しますが、あなたの意図と一致する保証はありません。

3つだけ伝えれば十分

難しく考える必要はありません。AIに何かを頼むとき、次の3つを言えれば、それだけで十分です。

要素質問
What(何を)何をしてほしいのか「議事録を作ってほしい」
Why(なぜ)何のためにやるのか「上司への報告用に」
完了条件どうなったらOKか「A4で1枚、箇条書きで」

Before / Afterで見てみよう

悪い例1:

「会議のまとめ作って」

→ AIは何の会議か分からないし、どんな形式でまとめればいいかも分からない。長文レポートが返ってくるかもしれないし、箇条書き3行かもしれない。

良い例1:

「今日の営業会議の議事録を作りたい。参加者はA部長、B課長、私の3名。決定事項と次のアクションを箇条書きでまとめて。以下が会議メモです:(メモを貼り付け)」

→ What(議事録)、Why(記録のため、が文脈から明らか)、完了条件(箇条書き、決定事項+アクション)が揃っている。

悪い例2:

「お客さんへのメール書いて」

→ どのお客さん? 何の用件? 丁寧さのレベルは? 情報がなさすぎる。

良い例2:

「取引先のC社・田中様に、来週火曜の打ち合わせ日程を確認するメールを書いて。候補は火曜14時か水曜10時。丁寧だけど硬すぎないトーンで」

→ 宛先、用件、選択肢、トーンが明確。AIはこれだけあれば、かなり良いメールを書いてくれます。

悪い例3:

「売上データを分析して」

→ どの期間? 何を知りたい? 前年比? 商品別? 何も分からない。

良い例3:

「2025年度Q4の商品カテゴリ別売上データをもとに、前年同期比で成長率が高い上位3カテゴリを教えて。データはこちら:(データを貼り付け)」

→ 期間、比較対象、出力形式が明確。

言語化とは「相手に伝わるように考えること」

文章のうまさではありません。「自分は何が欲しいのか」を自分で分かっていること。それがAIへの指示でも、人間への依頼でも、いちばん大切なことです。

「抽象」と「具体」— AIへの指示で最も大切な距離感

ここで、プラクティスの前にひとつだけ知っておいてほしい概念があります。それが**「抽象」と「具体」**です。

難しそうな言葉ですが、やっていることは日常的です。

  • 抽象:ざっくり、大まかに伝えること。「飲み物を買ってきて」
  • 具体:細かく、ピンポイントで伝えること。「午後の紅茶のミルクティー、500mlペットボトルを1本買ってきて」

「飲み物」だけだと、コーヒーかもしれないしビールかもしれない。相手は迷います。でも逆に「午後の紅茶ミルクティー500ml、セブンイレブン駅前店で、棚の左から3番目の…」まで言われたら、「いや、自分で買ったほうが早くない?」ってなりますよね。

AIへの指示でも、これとまったく同じことが起きます。

抽象度指示の例AIの反応
抽象すぎ「いい感じの資料作って」何を作ればいいか分からず迷走。100通りに解釈できてしまう
具体すぎ「Arial 12pt、左揃え、行間1.5、余白上下25mm左右20mm、1行目に日付を…」言われた通りにはやるが、AIの提案力や判断力を一切活かせない
ちょうどいい「営業会議の報告用に、A4で1枚の要約を作って。決定事項とネクストアクションを箇条書きで」目的とゴールが明確なので、AIが構成・表現を工夫できる

コツはシンプルです。What(何を)とWhy(なぜ)は具体的に、How(どうやるか)はAIに任せる。目的地はハッキリ伝えて、行き方はAIに考えさせる。この距離感が掴めると、AIの出力は格段によくなります。

この「抽象と具体のバランス感覚」は、AIとの対話だけでなく、あらゆるコミュニケーションで役立ちます。ぜひ意識してみてください。

💡 言語化を実際に鍛えてみたい方は、記事末尾の付録:言語化トレーニングに5段階の練習メニューを用意しています。


第3章:AIとの対話は「特別なスキル」じゃない

「プロンプトエンジニアリング」に惑わされるな

「プロンプトエンジニアリング」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。AI界隈では有名な言葉で、「AIへの指示(プロンプト)を工夫して、良い出力を引き出す技術」のことです。

なんだか難しそうですよね。でも、構える必要はまったくありません。

ネットには「魔法のプロンプト」「最強テンプレート」みたいな情報があふれています。でも、第2章を読んだみなさんならもうお気づきでしょう。プロンプトエンジニアリングの本質は、「相手に伝わるように話す」——それだけです。テンプレートを丸暗記するより、「What / Why / 完了条件」を自分の言葉で言えるほうが、長い目で見てずっと役に立ちます。

仕事の依頼と同じだと気づけば怖くない

考えてみてください。みなさんは普段の仕事で、こんなことをしていませんか?

  • 上司に報告するとき、背景→結論→今後の対応の順で話す
  • 後輩に仕事を頼むとき、目的と完了条件を伝える
  • 取引先にメールを書くとき、相手が知らない前提を補足する

実は、AIへの指示もこれとまったく同じ構造です。特別な技術を覚える必要はありません。普段の仕事で「伝え方」を意識している人は、AIともうまくやれます。

ただし、AIは「忖度のプロ」

ひとつだけ、人間相手と違う点があります。

人間の同僚なら、曖昧な指示に対して「それ、どういう意味ですか?」と聞き返してくれます。でもAIは聞き返しません。「たぶんこういうことだろう」と推測して、何かしらの答えを返します。

あなた:「来週のイベントについてまとめて」

AI:(「まとめて」を「企画書を作る」と解釈して、予算やスケジュール表つきの企画書を返してくる)

あなたは「参加者への案内文を書いて」という意味で言ったかもしれません。でもAIは曖昧な指示から「最もありそうな意図」を推測して突っ走ります。

だから、AIにはむしろ人間以上に明確に言う必要があります。忖度してくれるからと言って甘えないこと。第2章で紹介した「What / Why / 完了条件」を意識するだけで、この問題はほぼ解決します。


第4章:AIの出力を「信じない」技術

もっともらしい嘘に気をつけろ

第1章で「AIは自信満々に間違える」と書きました。この章では、もう少し具体的に掘り下げます。

AIが出力する誤りの中で最も危険なのは、**「ハルシネーション」**と呼ばれるものです。日本語にすると「幻覚」。つまり、AIが存在しない情報をさも事実のように語る現象です。

具体例を見てみましょう。

例1:存在しないURLを教えてくる

あなた:「この件について参考になるWebページを教えて」

AI:「こちらのページが参考になります:https://example.com/guide/2025/ai-best-practices

一見それっぽいURLですが、アクセスすると404エラー(ページが存在しない)。AIは「こういうURLがありそうだ」という推測で、実在しないURLを生成することがあります。

例2:架空の統計データを出す

あなた:「日本のリモートワーク普及率は?」

AI:「2025年時点で日本のリモートワーク普及率は47.3%です(総務省『通信利用動向調査』より)」

数字やソース名がもっともらしいですよね。でも、この数字がAIの「創作」である可能性があります。実在する調査名を使いつつ、数字を作り上げてしまうことがあるのです。

例3:存在しない法律の条文を引用する

あなた:「個人情報保護法で、この場合はどうなる?」

AI:「個人情報保護法第23条第2項に基づき…」

条文番号まで具体的に出してくるので、信じたくなります。でも、条文の内容が微妙に違っていたり、そもそもその条項が存在しなかったりすることがあります。

「AIが言ったから正しい」は最も危険な思考

ここで断言します。

「AIが言ったから正しい」は、仕事で最も危険な思考のひとつです。

なぜなら、AIの出力はとても「それっぽい」からです。文章は整っているし、自信ありげだし、ソースまで示してくる。人間は「自信を持って言い切られると信じやすい」という心理的傾向があります。AIはまさにこの弱点を突いてきます(意図的にではなく、構造的に)。

特に危険なのは、**「自分がよく知らない分野」**でAIを使うときです。知識がない分野では、AIの出力が正しいかどうか判断する基準がありません。間違いに気づけないまま、その情報をもとに仕事を進めてしまう恐れがあります。

じゃあ、どうやって確認するか

「信じるな」と言うだけでは不親切ですよね。実際にどう確認すればいいか、実践的な方法をお伝えします。

① 数字・固有名詞・URLは必ず裏を取る

AIが出してきた統計データ、人名、法律名、URL——これらは必ず自分で検索して確認してください。1分もあれば確認できます。この1分の手間を惜しんで、間違った情報を社外に出してしまったら、信用問題になりかねません。

② 「ソースはどこ?」と聞く

AIに「その情報のソースを教えて」と追加で聞いてみましょう。ただし注意:AIはソースも捏造することがあります。だからソースを聞いたら、そのソース自体が実在するかも確認してください。

③ 重要な判断には「セカンドオピニオン」

大事な意思決定にAIの出力を使う場合は、別のソースでも確認しましょう。別のAIサービスに同じ質問をしてみる、社内の詳しい人に聞く、公式ドキュメントを見る。情報の重要度が高いほど、確認のコストをかける価値があります。

④ 「自分が知っている分野」で試す

AIを使い始めたばかりの頃は、まず自分がよく知っている分野で試してみてください。AIの出力が正しいか間違っているか、自分で判断できるからです。そうすると「AIってこういうところは正確だけど、こういうところは怪しいな」という感覚が身につきます。

⑤ AIの出力は「下書き」と思う

最初から完成品を期待しない。AIの出力は「下書き」「たたき台」であると割り切りましょう。そこから自分で加筆・修正・確認して仕上げる。この意識があるだけで、ハルシネーションの被害は大幅に減ります。

ちょっと待って、そのデータ貼って大丈夫?

ハルシネーションとは別に、もうひとつ新人のうちに知っておいてほしいことがあります。**「AIに何を入力するか」**の問題です。

AIに質問するとき、つい手元のデータをそのままコピペしたくなりますよね。でも、ちょっと立ち止まってください。

  • 顧客リスト(名前・連絡先・取引金額)をそのまま貼り付けて「分析して」
  • 社内メールの転送文を丸ごと渡して「要約して」
  • 未公開の売上データを貼って「グラフにして」

これらはすべて、会社の機密情報を外部サービスに送信しているのと同じです。多くのAIサービスは入力データを学習に使わない設定もありますが、そもそもサーバーに送信される時点で情報漏洩のリスクがあります。

判断に迷ったら、「この内容がネットに公開されても問題ないか?」と自問してみてください。 答えがノーなら、個人名をダミーに置き換える、数字をぼかす、社内のAI環境(あれば)を使うなどの対策を取りましょう。セキュリティは「知っていれば防げる事故」がほとんどです。


第5章:どこまで任せて、どこから人間がやるか

AIに任せてよいこと

さて、ここまで「AIは間違える」「信じるな」と散々脅してきましたが、じゃあAIって使う意味あるの? と思いますよね。

あります。めちゃくちゃあります。

大事なのは、何を任せるかを正しく選ぶことです。

以下は、AIに安心して任せられるタスクの例です。

任せてOK具体例
調査・情報収集「あるテーマについて概要をまとめて」「この用語の意味を教えて」
下書き・たたき台メール、議事録、報告書、提案書の初稿
定型作業データの整形、フォーマット変換、テンプレート作成
選択肢の列挙「キャッチコピーの案を10個出して」「この問題の対策を5つ挙げて」
壁打ち・ブレストアイデア出し、考えの整理、別の視点からの意見
文章のブラッシュアップ誤字脱字チェック、表現の改善、読みやすさの向上
翻訳・要約長文の要約、外国語の翻訳(ただし重要文書は人間チェック必須)

これらに共通するのは、**「最終判断を人間がするという前提で、その手前のプロセスを効率化する」**という使い方です。

人間がやるべきこと

一方で、AIに任せるべきでないこと(=人間がやるべきこと)もあります。

人間がやる理由
最終判断・承認責任を取るのは人間。AIは責任を取れない
事実確認AIの出力が正しいか検証するのは人間の仕事
社外コミュニケーション取引先や顧客への公式な連絡は人間が確認してから
感情が関わる場面クレーム対応、人事評価、デリケートな交渉
機密情報の判断何をAIに入力してよいか、してはいけないかの判断
倫理的判断「やっていいこと」「やってはいけないこと」の線引き

「丸投げ」ではなく「分業」

大事なのは、AIに「任せる」ことと「放っておく」ことは違うということです。

AIとの正しい関係は、**「AIに丸投げ」ではなく「AIと分業」**です。

たとえば、取引先への提案書を作るとき。

丸投げパターン(危険):

  1. AIに「提案書作って」と言う
  2. AIの出力をそのままコピペして提出

分業パターン(推奨):

  1. 自分で提案の骨子(何を・なぜ・いくらで)を整理する
  2. AIに「この骨子をもとに提案書の初稿を作って」と依頼する
  3. AIの出力を読み、事実関係を確認し、自社の文脈に合うように修正する
  4. 上司にレビューしてもらう
  5. 提出する

手順が増えたように見えますが、2の「初稿を作る」部分がAIによって大幅に高速化されています。1時間かかっていた初稿作成が10分になる。そのぶん、3の確認・修正に時間をかけられる。結果として、品質を保ちながらスピードが上がるのです。

「AIを使いこなす人」と「AIに使われる人」

最後に、少しだけ厳しいことを言います。

AIをうまく使える人と使えない人の違いは、**「AIの限界を理解しているかどうか」**です。

  • AIを使いこなす人:AIの得意・不得意を理解し、適材適所で使い分ける。出力を鵜呑みにせず、自分の判断と組み合わせる。結果として、仕事の質とスピードが上がる。

  • AIに使われる人:AIの出力をそのまま受け入れる。確認しない。考えない。AIが間違えたら、「AIが言ったので…」と言い訳する。結果として、仕事の質が下がり、信頼も失う。

AIはツールです。包丁が料理人の腕で切れ味が変わるように、AIも使う人間の判断力で成果が変わります。

「AIに頼ると考える力が衰える?」

ここまで読んで、こんな不安が浮かんだ人もいるかもしれません。

「AIに何でもやらせていたら、自分で考える力がなくなるんじゃないか?」

気持ちはよく分かります。でも、ここまでの内容を振り返ってみてください。AIを使うために、あなたがやっていることは何でしたか?

  • 自分が何を求めているか分解する(第2章)
  • 抽象と具体のバランスを考える(第2章)
  • 出力を鵜呑みにせず、自分の頭で検証する(第4章)
  • 何を任せて何を自分でやるか判断する(第5章)

全部、「考えること」そのものです。

AIが奪うのは「考える力」ではありません。「作業」を奪うのです。 メールの下書き、データの整形、文章のたたき台作り——こうした「手を動かす時間」が短縮される。そのぶん、「何を伝えたいか」「この情報は正しいか」「本当にこれでいいのか」を考える時間が増える。

むしろAI時代には、「何を作るか」「何が欲しいか」を自分の言葉で定義できる人の価値が上がります。AIは指示された通りに作業するのは得意ですが、「そもそも何をすべきか」を決めることはできません。 それを決めるのは、いつだって人間の仕事です。

だから安心してください。AIを使えば使うほど、「考える力」はむしろ鍛えられます。衰えるのは「作業を手でこなす力」だけ。そしてそれは、衰えてもまったく困りません。


まとめ

この記事で伝えたかったことを、5つにまとめます。

1. AIは万能ではない。間違えるし、忘れるし、勝手に気を利かせる。 →「超優秀だけど記憶喪失の新人」と思って付き合おう。

2. 言語化能力=文章力ではない。「自分が何を求めているか分解できる力」。 → What(何を)/ Why(なぜ)/ 完了条件。この3つを伝えれば十分。

3. AIへの指示は、仕事の依頼と同じ。特別なスキルはいらない。 → 相手に伝わるように話す。それがプロンプトエンジニアリングの本質。

4. AIの出力は「下書き」。数字・固有名詞・URLは必ず自分で確認する。 →「AIが言ったから正しい」は最も危険な思考。

5. 丸投げではなく分業。使う人間の判断力が成果を決める。 → AIに何を任せ、何を自分でやるか、その線引きが大事。

AIは、これからの仕事において、メールやExcelと同じくらい「当たり前のツール」になっていきます。でも、メールやExcelだって使い方を間違えれば事故が起きますよね。AIも同じです。

最初から完璧に使いこなそうとしなくて大丈夫です。まずは日常の小さなタスク——メールの下書き、議事録の整理、ちょっとした調べ物——から試してみてください。使っていくうちに、「ここはAI、ここは自分」という感覚が自然と身についてきます。

AIとうまく付き合うコツは、結局のところ「人とうまく付き合うコツ」と同じです。

伝えたいことを明確にする。相手の限界を理解する。信頼しつつも、確認を怠らない。

それだけで、あなたのAI活用は確実に一歩前に進みます。

新人のみなさん、一緒にがんばりましょう。

💡 この記事の続編として、AIとの仕事を「積み重ね」に変える方法も公開しています。「伝え方」の次のステップとして、ぜひ読んでみてください。


付録:言語化トレーニング ── 5分でできる練習メニュー

「言語化が大事なのは分かったけど、どうやって鍛えればいいの?」

そう思いますよね。ここまで読んで「なるほど」と思った方もいるかもしれません。でも、「わかる」と「できる」はまったく別のことです。料理のレシピを読んだだけでは料理ができないのと同じです。実際に手を動かして、試して、失敗して、少しずつ感覚を掴んでいく。そのための練習メニューを用意しました。

安心してください。特別な道具はいりません。スマホのメモ帳があれば、今すぐ始められます。

ポイントは**「情報の取捨選択」と「抽象度の調整」**。この2つを意識するだけで、AIへの指示も、人への説明も、格段に伝わりやすくなります。

以下の練習を、レベル1から順番にやってみてください。


Lv.1:身近なものを一文で説明する

お題:自分のスマホを、持っていない人に一文で説明してください。

「えっ、そんなの簡単でしょ」と思うかもしれません。でもやってみると意外と迷います。サイズの話をするのか、機能の話をするのか、色の話をするのか。何を選んで何を捨てるか——それが言語化の第一歩です。

:「手のひらサイズの薄い板で、電話もカメラもインターネットも全部これ1台でできる道具です」

なぜAI活用に役立つか:AIに何かを説明するとき、「相手が知らない前提で、何を伝えれば分かるか」を考える癖がつきます。AIはあなたの状況を知りません。この練習が、過不足ない情報提供の基礎になります。


Lv.2:昨日の出来事を「3行」で伝える

お題:昨日あったことを、同僚に3行(100文字以内)で伝えてください。

1日の出来事は膨大です。朝起きて、通勤して、会議があって、ランチを食べて——。でも3行しか使えないとしたら、何を残して何を削るのか。この取捨選択が言語化のトレーニングになります。

:「午前中にA社との打ち合わせがあって、新しい案件の概要が決まった。午後はその提案書の骨子を作った。定時で上がれたので久しぶりにジムに行った」

なぜAI活用に役立つか:AIに背景情報を伝えるとき、「全部話す」のは非効率です。必要な情報を選んで、コンパクトに渡す。この「要約力」は、AIとのやりとりで毎回使うスキルです。


Lv.3:好きな曲の歌詞を文字数制限で説明する

これが本番です。お気に入りの曲を1つ選んで、以下の3パターンで説明してみてください。

制限ルール
20文字以内曲のエッセンスをひとことで
50文字以内もう少し具体的に。テーマや感情を含める
100文字以内聞いたことがない人にも伝わるように

例(あいみょん「マリーゴールド」の場合)

  • 20文字:「夏の恋の記憶を花に重ねたラブソング」

  • 50文字:「夏の日に好きな人と過ごした記憶を、風に揺れるマリーゴールドに重ねて歌う、切なくも温かいラブソング」

  • 100文字:「夏の風に揺れるマリーゴールドの花を見て、好きな人と過ごした日々を思い出す。『あの日の二人』はもう戻らないけれど、あの光景は色褪せない——そんな切なさと愛おしさが詰まった、あいみょんの代表的なラブソング」

やってみると分かりますが、20文字が圧倒的に難しいです。何を捨てるかの判断を極限まで迫られます。

なぜAI活用に役立つか:AIへの指示で最も重要なスキルは「抽象度のコントロール」です。概要だけ伝えたいのか、詳細まで伝えたいのか。同じ内容でも、20文字で伝えるときと100文字で伝えるときでは、選ぶ言葉がまったく変わります。この感覚が身につくと、AIへの指示の精度が飛躍的に上がります。


Lv.4:「なぜ好きか」を他人に伝える

お題:自分の好きな映画・本・ゲームなどを、興味がない人に「見てみたい/読んでみたい」と思わせるように、100文字以内で紹介してください。

Lv.3までは「事実の要約」でした。このレベルでは、相手の立場に立って、刺さるポイントを選ぶ必要があります。自分が好きな理由と、相手が興味を持つ理由は違うかもしれません。

:「『プロジェクト・ヘイル・メアリー』——目が覚めたら宇宙船の中。地球を救うミッションの記憶は消えている。たった一人の科学者が、異星の"相棒"と出会い、知恵を絞って人類の危機に挑むSF小説」

なぜAI活用に役立つか:AIに「誰向けに」「どんなトーンで」書いてほしいかを指示するとき、この「相手目線で情報を選ぶ力」が直結します。同じ内容でも、新人向けと経営層向けでは伝え方が違いますよね。


Lv.5:抽象的な概念を、たとえ話で説明する

お題:「信頼」という言葉を、小学生にも分かるように、たとえ話を使って3文以内で説明してください。

もっとも難しいレベルです。抽象的な概念を、具体的なイメージに変換する必要があります。

:「信頼っていうのは、友達に『明日マンガ貸して』って言われて、『いいよ』って迷わず言えること。その子はちゃんと返してくれるって分かってるから。そういう安心感のことを信頼って言うんだよ」

なぜAI活用に役立つか:AIに複雑な業務を説明するとき、「たとえるならXXのような作業」と伝えると、AIの理解精度が大幅に上がります。抽象と具体を行き来する力は、AI活用における最上位スキルの1つです。


どのレベルも、通勤中や休憩時間にスマホひとつでできます。「AIを使いこなすための練習」というより、**「伝え方そのものを鍛える練習」**です。AIに限らず、人間相手のコミュニケーションでも必ず役に立ちます。

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